「怪しい店」

有栖川有栖の「怪しい店」(角川書店)を読みました。
怪しい店
いわゆる「作家アリスシリーズ」の中では初めてオススメできる作品に出会いました。

「古物の魔」「燈火堂の奇禍」「ショーウィンドウを砕く」「潮騒理髪店」「怪しい店」という6編が収められた短編集です。「あとがき」によれば、〈店〉を題材にしたミステリでまとめた短編集で、〈宿〉にまつわるミステリをまとめた「暗い宿」という短編集の姉妹編と言えるものだそうです。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
骨董品店で起きた店主殺人事件、偏屈な古書店主を襲った思いがけない災難、芸能プロダクションの社長が挑んだ完全犯罪、火村が訪れた海辺の理髪店でのある出来事、悩みを聞いてくれる店“みみや”での殺人事件。「どうぞお入りください」と招かれて、時には悪意すら入り込む。日常の異空間「店」を舞台に、火村英生と有栖川有栖の最強バディの推理が冴える。極上ミステリ集。

あまり繁盛していない商店街の外れにある骨董店「あわしま」の店主が殺され、押入に押し込まれているのが発見された事件を扱った「古物の魔」。

古本屋の「燈火堂」は偏屈な主人が自らの蔵書だけを売る古書店で、大手精密機器メーカーを早期退職して退職金で始めた店。客に対して「その本が本当に必要かどうか、十日間考えてからまたこい」と言い、十日を過ぎなければ売ることをしない変わり者。その店主が何者かに突き飛ばされて怪我を負うという事件を扱った「燈火堂の奇禍」。

繁華街から大きく外れた抜け路地の中ほどに、人の話を聴くだけの店「みみや」があり、その店の女性店主が殺された事件を扱った「怪しい店」。

以上3編はオススメに値しない短編でした。

オモシロイと思ったのは残る2編。

潰れる寸前の芸能プロダクションの社長が恋人を殺害。物語の語り手は、犯人である社長自身です。完璧な計画を立てて恋人を殺したつもりが・・・アリスとコンビを組んでいる火村准教授に追いつめられていく心境が語られる物語である「ショーウィンドウを砕く」。

有栖川の視点で描いた物語が多い中にあって、犯人視点で描いた本編は光っていました。犯人の感情の歪みがていねいに描かれています。火村の仕掛けたワナは単純なもので、そのことが書かれている個所で私にもそれがワナだと分かるぐらいのもの。

もう一つの「潮騒理髪店」では何も「事件」は起こりません。謎として登場するのはいたずら電話とある女性が岬で特急列車にハンカチを振った(ように見えた)理由。

火村准教授がたまたま旅先で立ち寄った理髪店は翌日から廃業する店。その店の最後の客となった火村が旅先で出会った「謎」を有栖川に話し、それを有栖川が語るという形式です。

「作家アリスシリーズ」には期待していなかった情緒溢れる内容に、こんな作品も書く作家だったことを初めて知ることとなりました。
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「私の宝石」

朱川湊人の「私の宝石」(文藝春秋)を読みました。
私の宝石
今までに読んだ作品は、いわゆる「ノスタルジックホラー」的なものが多く、昭和40年代を舞台にした「かたみ歌」では全ての短編に幽霊が登場。昭和30年代を舞台にした「「わくらば日記」。「銀河に口笛」は幽霊は登場しませんが、昭和40年代を舞台にして不思議な現象が起きる物語。アンソロジーに収録された短編2作も郷愁を誘うホラーがかった短編。例外?は若い方が読んでもOKな「本日、サービスデー」。

昭和という時代を懐かしく感じることができる世代以外にはホントのよさが分かってもらえない作品ばかりでした。

今回の「私の宝石」は・・・「さみしいマフラー」「ポコタン・ザ・グレート」「マンマル荘の思い出」「ポジョン、愛してる」「想い出のセレナーデ」「彼女の宝石」という6本の短編が収められていて、ホラー的な作品は「さみしいマフラー」だけ。

昭和30年代から40年代のことが多く登場します。私と同世代の方が読めば郷愁を感じる話が多いのですが「さみしいマフラー」以外はホラー色が全くなく、ホラーがかった作品が苦手な方にもオススメできる逸品ぞろい。「昭和」を知らない世代にもオススメできる短編も収録されています。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
女性の前で男性が「さみしい」と口にする時、きっとさみしさは、その瞬間に消えているのです。じんわりと心をえぐる、特別な愛のストーリー6編。

最も印象に残ったのは「ポコタン・ザ・グレート」。

ポコタンは柔道家だった父の初めての子どもで4600gという大型サイズで生まれ、楽天家の母の影響なのかおおらかでよく笑う子に成長。

ポコタンの古い記憶の中に父親から土下座されている光景があります。何を謝っていたかというと、愛娘の顔や体格があまりに自分に似てしまったということ。格闘技をするために生を受けたようながっしり骨太の大男。顔もいかつく、細い眼にあぐらをかいたような鼻、への字を描く口。若き日のあだ名は「広目天」や「平家蟹」、高校教師になってからは「南洋の呪い面」。

否定的なことは何一つ言わず、美点を見つけ出して子育てした母の影響で、ポコタンは自分が可愛くないなどとは夢にも思わず、楽しい幼少時代を過ごします。

そんなポコタンでしたが、自我が芽生えるにつれて生きづらくなっていきます。小学校高学年になると父の遺伝子が色濃く表れ、「大魔神」「ジャガイモ」「岩石」「ゴーロン星人」などなど、男子からつけられたあだ名は数知れず・・・。

そんなポコタンが中高生から短大生、社会人、母親となるまでを描いた小説です。

ある人物がポコタンの歩みを語る形式をとっています。その語り手とは・・・(ネタバレになりますが)ポコタンの息子。

父は・・・ポコタンの中学生時代の一年先輩で、百m走では区の最高記録保持者、勉強は常に学年で5番以内、男が見ても惚れ惚れするするくらいにハンサムでずっともてもて状態が続いていた男。

美醜が人生をいかに左右するか・・・ポコタンの歩んだ道を朱川湊人らしさあふれる優しい視点で描いたオススメの短編です。

読みやすい文章で書かれ、短編によって味は異なりますが、じわっと旨さが口の中に広がるような・・・強烈な物語性はありませんが・・・読んで心が洗われるような作品が揃っています。ご一読あれ・・・。
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「太陽は気を失う」

乙川優三郎の「太陽は気を失う」(文藝春秋)を読みました。
太陽は気を失う
この作家のことを時代小説作家だと思い込んでいたので・・・図書館で表紙を見てビックリさせられました。パラパラめくってみると、現代小説でした。14編からなる短編集なので読み応えがないだろうと思い、迷ったのですが・・・ダメモトと割り切って借りました。

描かれている内容は私にはあまり縁がない世界の話が多いのですが、全ての短編が人生の再出発を描いていますので考えさせられることが多い短編集でした。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
生死を分けたあの時間、男女が終わった瞬間、人生で最も大きな後悔と向き合う最後の時…。人生の分岐点を端正な文章で切り取った、十四の芳醇な現代短編。

「太陽は気を失う」「海にたどりつけない川」「がらくたを整理して」「坂道はおしまい」「考えるのもつらいことだけど」「日曜に戻るから」「悲しみがたくさん」「髪の中の宝石」「誰にも分らない理由で」「まだ夜は長い」「ろくに味わいもしないで」「さいげつ」「単なる人生の素人」「夕暮れから」という14編から成っています。

主人公は中高年の男性や女性。家族を喪ったり、仕事を失ったり、大病を患ったり、定年退職後の第2の人生の出発で苦しんだり、離婚後にしたたかに生きる女性のあくまでも前向きな姿を描いたり、年老いてから妻に去られていく男の寂しさを描いたり・・・共通するのは女性の強さ。

特に印象に残ったのは表題作の「太陽は気を失う」。

40代のときにそれまでうまくいっていた会社を博奕で潰した夫は、畑違いの職を転々として今は引退。貯金は底をつき普通に生活することすら難しくなっているにもかかわらず裕福なご主人を気取り、毎日何もせず、することといえば海岸への散歩だけ。

そんな夫が「私」に言った言葉が「田舎へ行ってこい、母親なら家を売ってでも俺たちを助けるべきだろう」。

帰郷した「私」は老母にお金の話を切り出すことができず、母に頼まれて買い物に出かけようとしたときに地震が・・・そして津波警報が・・・津波から逃れ、かろうじて通じた公衆電話で夫に東京の姉に連絡して車で助けに来てほしい旨を言うと、「あの人は苦手だ、話したくない」「金は借りたのか」・・・。

福島第1原発が水素爆発を起こし、余震に放射性物質の脅威が加わり呆然としている「私」を救ってくれたのは従姉夫婦。車で東京まで連れて行ってくれたのです。

あれからおよそ30ヶ月。「私」は離婚して、母の介護をしながら近所のスーパーでパートの仕事。

震災で奇跡的に生き延びたことや生死不明の人々の描写などを省くと、こんな内容の小説です。

・・・表紙の意味が??読み終えても何故こんな表紙にしたのかまったく理解できません・・・

味わい深い短編もあるのですが、ストーリーの粗い短編が多く、あまりオススメできません。
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「天女湯おれん これがはじまり」

諸田玲子の「天女湯おれん これがはじまり」(講談社)を読みました。
天女湯おれん
この本がシリーズ第2作目だということを知らずに借りたのですが、前作を読んでいなくても全く問題はありませんでした。

このブログを書くために「『BOOK』データベース」を検索するときに「天女湯おれん」というシリーズ1作目があることを知ったのですが、1作目の小説の「前史」が書かれているため、独立した長編として本作だけを読んでもOKだったのです。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
文政十二年、江戸の町を焼き尽くす大火によって、おれんは、義父も湯屋も失ってしまう。幕府が作ったお救い小屋で生活を始めるおれん。しかし、気風の良さで天女と慕われる彼女のもとには、ここでも次々と厄介事が持ち込まれるのだった。湯屋と裏長屋の再建のため、懸命に走るおれんを描く、爽快な人情話。

時代小説を読んでいると、江戸の大火のことがよく登場します。江戸の大火で最大規模のものは明暦の大火(1657年)で、面積・死者数共に日本史上最大の火事(戦争によるものを除いて)だったようです。

この小説は文政の大火(1829年)を扱っています。

主人公は、八丁堀の「天女」と慕われているおれん。おれんは武家の娘でしたが、母が理不尽な目にあって自害。父は浪人となり、貧しい暮らしがたたって湯屋で倒れ、湯屋の主である利左衛門に助けられたことがきっかけで居候となり、病死するまで湯屋で働いていました。

父の死後、利左衛門(妻は3年前に病死、実子二人も早世)の養女となり、今は義父が営む湯屋を手伝っています。

朝の五つ(午前8時前後)から夜の五つ(午後8時前後)まで次々に町の人々がやってくる八丁堀の北島町にある湯屋が空いている午(ひる)近く、使用人たちが早めの昼餉をとるときに、おれんが番台にいる義父と交代しようとしたまさにそのとき、火事の知らせが・・・。

八丁堀からは離れた神田佐久間河岸から出火した火事でしたが、風向きが悪く八丁堀どころか東は両国橋まで、西は須田町から西鎌倉河岸まで、南は佃島から新橋まで、いっさいを焼き尽くしすさまじい被害をもたらします。

火事で利左衛門は焼け死に、おれんが様々な人々の力を借りながら湯屋を再建し、「天女湯」の女将となるまでを描いた物語です。悲惨な火事による生活苦や暮らしの激変ぶりがていねいに描かれ、同時に復興までのおれんたちの力強さも描かれ・・・一気に読ませる力を持った小説でした。
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「ガンコロリン」

海堂尊の「ガンコロリン」(新潮社)を読みました。
ガンコロリン
奇をてらった作品のオンパレード。よく言えばブラックユーモアに溢れた?短編集。ウケをねらった駄洒落を言ってみんなにキョトンとされるぐらいなら、正面から医療問題に切り込んでほしかったと思わせる上滑り感の拭えない医療短編小説集です。

「健康増進モデル事業」「緑剥樹の下で」「ガンコロリン」「被災地の空へ」「ランクA病院の愉悦」という5編からなる短編集です。

「螺鈿迷宮(上)(下)」という長編を読んでからずっと遠ざかっていた作家ですが、久しぶりに読んでガッカリさせられました。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など五篇を収録。

全ての短編が架空の物語ですが、ある程度現実を反映している内容を含み、それなりにオモシロイのですが少しふざけすぎて白けてしまいます。

「健康増進モデル事業」では・・・あるサラリーマンに厚生労働省医療健康推進室から「・・・ラッキーな当選者です。」「健康優良成人策定委員会のモデルに選ばれました」というお知らせが届き、日本国民から3名だけ無作為に選ばれ、半年間、健康を追求する手助けを行うというもの。

内容は省略しますが、このサラリーマンが健康になったのは、一度もとったことがない年休をとり、上司からのパワハラから脱出するなど、会社や社会からのストレスから解放されることによって人間的な生活を取り戻せたこと。

「ガンコロリン」では・・・飲むだけでガンを予防できる薬が開発され、ガンの手術が激減。結果、外科医の腕は落ち、ついには消化器外科が消滅。しかし、20年後にはガンコロリンに耐性を持つ新型のガンが出現。絶滅寸前となっていたために手術ができる外科医はいなくなっており・・・という内容。

「ランクA病院の愉悦」では・・・大勝した阿房政権がTPPに参加し、日本の医療を米国保険業界に売り渡して2年が経ち、TPPに付随した自由診療推進の結果、公立病院には3段階、4種類の基本医療システムが導入され、受験の偏差値なみの格付けとなった社会を描いています。

売れない作家が頭痛で困ったときにランクC病院に行くと、自動診断ロボットのトロイカ君に診察してもらい薬を処方してもらうという仕組みになっていて、処方されたアスピリンを飲むとすぐに頭痛は治まり・・・こんな経験を持つ作家に週刊誌の短期集中連載企画が持ち込まれます。

連載内容は、ランクC病院での受診とランクA病院での受診をして両機関の対応を比較検討するというもの・・・。

現実に、国民皆保険が壊され、混合診療が拡大・解禁されるかもしれない(貧富の差で医療に差をつけられる)ことを考えると決して有り得ない話ではありません。

作者の本業は、医師。こうした医療に関わる問題をお遊び的な描き方でふざけて書くのはいただけません。ユーモアというのは人を笑顔にさせるものです。この小説にはユーモアを感じることはできません。後味の悪い作品でした。
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プロフィール

キク

Author:キク
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旧「アコーディオン好きの徒然日記」ともどもよろしくお願いします。

◆松原アコーディオンクラブ・奈良アコーディオン愛好会・ぱすとらあるアコ所属。
◆日本アコーディオン協会評議員

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