「進々堂世界一周 追憶のカシュガル」

島田荘司の「進々堂世界一周 追憶のカシュガル」(新潮社)を読みました。
追憶のカシュガル
「進々堂ブレンド 1974」「シェフィールドの奇跡」「戻り橋と悲願花」「追憶のカシュガル」という4編から成っています。

島田荘司のミステリを(ずいぶん前ですが)好んで読んでいた時期がありました(読んだ本はほとんど処分したので題名は???です)。その中に「御手洗潔」シリーズというものがありました。本作は、探偵役の御手洗潔がまだ京大生だった頃、世界放浪の旅を終えて戻ってきたときに浪人中のサトルに旅のことなどを語るというスタイルの小説です。ミステリの範疇には入らないものでした。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
時は一九七四年、京都大学医学部に在籍していた御手洗潔は、毎日、午後三時に、進々堂に現れた。その御手洗を慕って、同じ時刻に来るサトルという予備校生がいた。放浪の長い旅から帰ったばかりの御手洗は、世界の片隅で目撃した光景を、静かに話し始める…。砂漠の都市と京都を結ぶ幻の桜、曼珠沙華に秘められた悲しき絆、閉ざされた扉の奇跡、そして、チンザノ・コークハイの甘く残酷な記憶…。芳醇な語りが、人生の光と影を照らし出す物語。

第1話の主人公は、浪人生の「ぼく」。この短編集の序章のような物語。京大近くの喫茶店「進々堂」で御手洗に放浪の旅の話を聞くようになった経緯や「ぼく」=サトルが日本海沿いの港町で育ったことや過去のほろ苦い思い出話を語り、それに対して御手洗が社会的弱者についての考えを語るというもの。

第2話以降は御手洗が放浪の旅で出会った人々が実質的な主人公となります。

◆イギリスの工業都市シェフィールドで出会った知的障害を持つギャリーという青年の話。障害はあるのですが重量挙げに非凡な才能を持っていました。障害を持つゆえにコーチの引き受け手がなかったギャリーでしたが・・・ここからが読みどころですが、カット・・・ついにコーチがつき、全英チャンピオンになった話。

第3話と4話はページ数が100ページを超える「中編」。

◆ロスアンジェルスのダウンタウンで出会った日本語の達者なチャンという韓国人の話。戦中、皇民化教育が徹底して行われた植民地の朝鮮で教育勅語を暗唱させられていたために今も暗唱できるチャン。彼は姉とともに日本に留学してきたのですが・・・連日、「風船爆弾」を作らされるだけ。疲れ切った少女たちにヒロポンを飲ませる日本軍。そして姉への酷い仕打ち・・・復讐のためにチャンが考えたこととは・・・

◆表題作は、シルクロードの要衝であるカシュガルで民族の誇りを奪われた老人の話。若き日の老人は、多くの国から人々が訪れ、諜報活動を行うカシュガルでイギリス人のスパイ的な役割を果たし、そのことが原因で今も街の人々から敬遠・蔑視される存在。御手洗に語ったのは当時つきあいがあった日本人のこと。

どの物語も読み応えがあり、どなたにも自信を持ってオススメできるものでした。
※文庫版は「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題されています。
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「口入れ屋おふく 昨日みた夢」

宇江佐真理の「口入れ屋おふく 昨日みた夢」(角川書店)を読みました。
昨日みた夢
「慶長笹書大判」「粒々辛苦」「座頭の気持ち」「名医」「三日月」「昨日みた夢」という6編からなる連作短編集です。

主人公となるのは、口入れ屋(周旋業=雇う側と雇われる側の間に立って世話をし、話がまとまれば双方から手間賃を受け取って生計を立てる仕事=)「きまり屋」の主である辰蔵の双子の兄弟、彦蔵の娘であるおふく。

おふくが5歳のときに母を労咳で喪い、それ以降「きまり屋」の離れの部屋に住んでいます。勇次という男と所帯を持ったことがありますが、勇次には前妻があり、前の女房が病にふせると働いていた小間物屋の売り上げを持ち出して行方知れずになり、離縁。物語はこの別れた勇次への思いを断ちきれないおふくの心の移り変わりも描きながら進んでいきます。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
今日も「きまり屋」には、奉公人を雇いたい者、雇われたい者がひきもきらずやって来る。それでも、面倒が起きると助っ人として駆り出されるのは、決まっておふく。

色気より喰い気、働きもので気立てのよいおふくは、金に渋い大将、内証に構わない女将、自分の弱さを売り物にする座頭、我侭妻に威張りん坊亭主…揃いもそろって偏屈な雇い主たちに憤慨したり閉口したり、時に同情したり。やり切れぬ思いをこらえながらも、様々な事情を抱えた人々と接するうち、おふくは姿をくらました夫への未練にも、自然と区切りをつけてゆく―。


おふくは掃除、洗濯、買い物、食事の支度、縫い物などの家事に追われる日々を過ごしているのですが、ひと月やひと月半の引き受け手が見つからない依頼が舞い込んできたときに助っ人として代役を果たすこともあります。物語は、おふくが代役として訳ありの奉公先で女中として奮闘する姿を描いています。

「慶長笹書大判」=人使いが荒く、女中が居着かない青物屋の八百竹。おふくが台所仕事をする女中として八百竹に行くと、子守りや見世仕事まで手伝わせようとする主。買い物に行くときには必要なお金を渡さずに身銭を切らせようとする、そんな八百竹で・・・

「粒々辛苦」=旦那と番頭が伊勢へおかげ詣りに行く間、妻は3人の子どもを連れて実家に戻り、隠居の世話をする女中として箸屋を営む桶正に。月が改まると、扱いに不満を抱いていた職人たちが姿を消し・・・

「座頭の気持ち」=座頭の妻がお産のために女中を連れて実家へ戻り、その間、座頭の世話をするために按摩・鍼・灸の診療所へ女中奉公。座頭の福市は金貸しをして利ざやを稼ぎ、「座頭」より位の高い「勾当」の位を手にするために何ごともけちり、「きまり屋」への支払いをしようとしないほど・・・

「名医」=「きまり屋」の近所にある診療所は医者の玄桂と母親の二人暮らし。母親が捻挫して台所仕事や玄桂の仕事を手伝うものがなく、給金前払いで女中奉公に。母親に気に入られて玄桂の嫁になってほしいと言われ、心が動くおふく・・・

「三日月」=酒屋「藤川屋」の娘が病を得て嫁ぎ先から戻り、そのわがままがたたって女中が居着かず、おふくが5人目。おみねのわがままぶりに驚くおふくですが、先が長くないことを知り・・・

「昨日みた夢」=初めて武家の女中奉公に出たおふく。主の文左衛門は偏屈もので通り、母親は文左衛門の妻が百姓出の娘であることを理由に「女中」扱い。文左衛門が卒中で倒れ、台所を手伝うためにやってきたおふくでしたが、家の中は全て行き届いており、なぜ自分が女中として雇われたのか不思議に思うおふく・・・

どの短編もさすが宇江佐真理と唸らされる出来具合。特に最後の「昨日みた夢」は、人情味溢れる素敵なお話でした。闘病中に書かれた作品のようです。「次作」が出ないことが残念でなりません。
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「立ち向かう者たち」

東直己の「立ち向かう者たち」(光文社)を読みました。
立ち向かう者たち
この作家の小説は「探偵法間ごますり事件簿」という軽いかるい探偵ものしか読んだことがありませんでした。

本作は少しだけですが「重い」内容の小説でした。「立ち向かう者」「作り話」「悪酔い男」「重り」「疑惑」「責任」「ケンシの人」という7編からなる短編集です。例外は「疑惑」と「責任」。この2作は連作短編とは言えませんが、片や別れた夫婦の妻を主人公とし、片や夫を主人公として描かれている短編です。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
うまくは生きられない。けれど、朝はまた来る。進退きわまって、正義や道理が通用しない目に遭って、人生の敗者になったと感じても。まだ、終わらない。容赦のない日々が、続いていく。自分だったかもしれない彼らを、共感をこめて描き出す。じわりと苦い傑作集。

印象に残った短編だけをご紹介します。

「立ち向かう者」の主人公は、背中に煙草を投げ入れられ軽い火傷を負った女子高校生の父親である町田紘一。被害者の保護者として裁判所へ。

加害者は知的障害者で、授産施設で受け取る報酬はひと月800円。裁判の中で知的障害者が置かれている状況を考えさせられ、自分の生きてきた道と加害者の立場を重ねて・・・被告の弁護士に「なんとかしてやってください」と泣きながら訴える切ない物語。

「疑惑」の主人公は生活保護を不正受給して仕事をまったくしない家に育った寿美子。定員割れで受験さえすれば入学できる県立高校に入学。卒業後、生まれた町から出てスーパーに就職します。

スーパー勤めをしながら売春したり、金銭抜きで3人の男と付き合ううちに妊娠。一番付き合いの短い哲也に「子どもができた」と告げると・・・あっさりと結婚。寿美子は「家事」をどうすればいいのか分からず、それを知った哲也が掃除や片付け、料理をするようになります。

寿美子は生まれてきた和輝の世話もせず、和輝を家に転がしたまま街でゲームをしたり、売春したり・・・結果、哲也と離婚。離婚後は空き巣で得た金で生活。その噂は市営住宅全体に・・・そして、ついに空き巣に入った家で小学1年生に見つかり、その子を殺害。このニュースはマスコミによって報道され、連日、寿美子はマスコミに取り囲まれることになります。

もうしらを切ることはできないと観念した寿美子は、犯人が他にいるように見せかけるために我が子である和輝を殺そうとするところで物語が終わります。

「責任」の主人公は、寿美子の元夫である哲也。「疑惑」の出来事を哲也の視点から描いた物語です。なぜ寿美子と結婚したのか、寿美子が殺そうとした和輝がどうなったのか・・・2つの短編で一つの物語と考えた方がいいかもしれません。

オススメできるような内容ではありませんが、読んで損はないかも・・・
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「超高速! 参勤交代」

土橋章宏の「超高速! 参勤交代」(講談社)を読みました。
超高速!参勤交代
現在の福島県いわき市に実在した藩で、陸奥国磐城の湯長谷藩の藩主とその家来たち8名(+サル1匹)が野宿をしながら野山を駆け、道中の要所要所では大名「行列」を装いながら江戸を目指す物語です。

ネットで「BOOK」データベースを検索して分かったのですが・・・2011年にまず脚本ができ、2013年にそれを小説化し、2014年に映画化されたようです。映画の予告編がYouTubeに残っていました。
「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
ときは享保二〇年初夏、改革の嵐吹き荒れる八代将軍徳川吉宗の時代。一万五〇〇〇石の磐城湯長谷藩に隠し金山嫌疑がかかり、老中から「五日以内に参勤せねば藩を取り潰す」と無理難題ふっかけられた。八日はかかる六十余里を実質四日で走破せねばならない。カネも時間も人も足りない小藩は、殿様以下七名で磐城街道と水戸街道、さらには山野を踏み越えて江戸城本丸へとひた走る。一行の前に立ちはだかるのは公儀隠密、御庭番、百人番所の精鋭部隊。湯長谷藩の運命や如何!?

この物語で人物像がくっきりと描かれているのは、3人。湯長谷藩藩主の内藤政醇と道案内役として雇われた雲隠段蔵という忍者、そして政醇が道中で出会い、後に側室となった「飯盛り女」のお咲。

3人ともに辛い過去を抱えていました。例えば政醇は、父や母に一度も抱かれることなく年増の乳母に育てられました。その乳母は父の前では愛想よく振る舞い、二人きりになるとまるで違う人に・・・。ことあるごとに折檻され、すぐに押し入れに蹴り入れられ、閉じ込めたことを忘れられて放置されたこともたびたび。小便を漏らすと強く打たれ・・・また、外からは見えにくい場所を線香で何ヶ所も焼かれたりして火傷の跡がたくさん・・・以来、今で言う閉所恐怖症になってしまいます。

段蔵とお咲のことは省略します。三者三様の過去が語られ、その過去をどう振り切って再生していくのか・・・これが一つの読みどころです。

物語全体としては、いわゆる勧善懲悪もの。中高生が読めば「参勤交代」の実態を学べたり、エンタメ性あふれる展開に心躍らされる内容だと思います。

・・・それ以上でもそれ以下でもありません。読みやすい時代小説なのですが、内容がチャチっぽ過ぎて重厚感ゼロ。公儀隠密や御庭番との激闘シーンなどシラケさせられる記述がてんこ盛り。軽薄短小の見本のような物語でした。

設定が斬新なので面白く読み進めることはできましたが、オススメできるような物語性はありませんでした。エンタメ性溢れるものがお好きな方なら読んでみてもいいかも・・・
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ジャンル : 小説・文学

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「バイ貝」

町田康の「バイ貝」(双葉社)を読みました。
バイ貝
主人公は、もうすぐ50歳になる小説家。私小説風な雰囲気が漂うオモロイ小説でした。ユーモアのセンスがあり、読み手を不愉快にすることがない、文体のオカシサを楽しめる作品でした。

調べてみると、作者は大阪出身。止まることを知らない、コワレタとしか思えないオフザケぶりを受けとめることができない方もきっといらっしゃるでしょう・・・と書かざるを得ないほど、オオサカ的な、よく言えば上方落語咄的な「笑い」あるいはそれ以上のものが盛りだくさん。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
物を買い、使う。買い、使う。今を生きるには、飽くなき消費を続けるしかないのだろうか。溜まりゆく鬱を散ずるため私はホームセンターに向かった。超言語激烈文芸作品。

スジは単純です。もうすぐ50歳となる小説家が日常生活や仕事などで生じた「鬱を散ずる」ために草を刈る鎌やジャンボ宝くじ、中華鍋、デジタルカメラを買う物語。

ただそれだけのこと。どれも結果として「鬱を散ずる」ことにはならず、最後には自虐的な気持ちからヤキソバの材料を買い、自ら調味して食べるところで終わります。

世間では小説を読むことに対して、想像力を豊かにし感性を磨くものだとか、心の栄養となるとか、整った日本語に触れることができるとか、なによりもストレスを解消してくれるとか、さまざまな「効用」が謳われています。

これら全てを期待しないで下さい、的な小説でした。淡々と話が進み、山場もヘッタクレもナシ。あるのは笑いだけ。読みようによればショーモナイ小説でアリマス。読み手によっては途中で読むのを止めてもおかしくないようなツマラナイ内容かも?

まあイッペン読んでみて下さい。そのオモシロサを説明する力が私にはありませんので。ただし、内容はナーンモありません。そして・・・私がこの作家の別の作品を読むことはおそらくないでしょう。
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プロフィール

キク

Author:キク
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旧「アコーディオン好きの徒然日記」ともどもよろしくお願いします。

◆松原アコーディオンクラブ・奈良アコーディオン愛好会・ぱすとらあるアコ所属。
◆日本アコーディオン協会評議員

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