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「朝顔の日」

高橋弘希の「朝顔の日」(新潮社)を読みました。
朝顔の日
今年、「送り火」で第159回芥川龍之介賞を受賞した作家。本作「朝顔の日」で第153回芥川賞候補となっていたようです。

時代は・・・作中に出てくる新聞記事を引用すると・・・布哇(ハワイ)、新嘉坡(シンガポール)を大爆撃ー帝國海軍、大奇襲作戰に成功した昭和16年。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
その日に死んでしまふ気がするのです―。凛太はTBを患い療養する幼馴染みの妻・早季を足繁く見舞っている。身体も、精神も、安静に保つ日々。しかし病状は悪化、咽喉の安静のため若い夫婦はついに会話を禁じられてしまう。そして或る日、彼が妻の瞳の底に見たのは、おそらく、人間が生きたまま宿してはいけない種類のものだった―。戦争を知らない世代が書いたと話題の『指の骨』で新潮新人賞を受賞し、各賞の候補に挙げられた大注目作家が描く、清らかで静謐な恋愛小説。

主人公である凜太は父の印刷工場で働くうちに徴兵検査を受ける歳になります。その年の12月に幼馴染みの早希と式を挙げます。式を挙げてから半年後に教育召集令状が届いたのですが、入営してから虫垂炎を患い、除隊。

3ヶ月ぶりに帰郷すると、奥の間から聞こえてきたのが妻の空咳。(余談ですが、その当時の死因で多いのは、全結核、肺炎及び気管支炎、脳血管疾患・・・。現在は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患・・・。)

妻が入院して以降、容態が悪化していく中での夫婦愛を描いた物語です。戦時中の物語ですが、戦場の話はほとんど描かれることなく、銃後を描いた物語です。早希が死に近づいていく姿と夫の凜太が病院へ通い続ける様子を細やかな筆致で描いており、病魔から逃げることができない(死に近づいていく)二人の心理描写を丁寧に綴り、静かに物語が進んでいきます。

文章表現も描かれている時代を反映させた書き方がされています。例えば・・・少しだけ引用しますと・・・
妻の病室は三階の東側にあった。病室の扉の上部には“三〇七號”と木札が貼り付けてある。病室へ入ろうとすると、正午まで食前安静なので出ていって下さいな、小林という看護婦に注意された。仕方なく、廊下から妻の病室を眺めた。三〇七には全部で四台の木製寝台が置かれていた。右奥の患者はガフキーで高い値が出た為に、他病棟へ移されたのだと聞いた。右手前の患者は快復して先週に退院したのだと聞いた。左手前の寝台も空だったが、特に何も聞いていない。枕も蒲団も敷布もなく、ただ茣蓙が敷いてあるだけで、硬く黒い木が露になっていた。結果として、病室は妻の一人部屋になっている。妻は左奥の窓際の寝台で、掛蒲団から白い顔を出した状態で、静かに仰臥していた。

結核の妻を看病する夫の視点が細やかで温もりを感じさせ、互いを労る二人の関係が胸を打ちます。

楽しみな作家が出てきたなあ、と唸らされました。オススメの一冊です。ページ数は単行本123ページで、すぐに読める小説です。ご一読あれ。
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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「川あかり」

葉室麟の「川あかり」(双葉社)を読みました。
川あかり
川明かりというのは大辞林によれば「日が暮れて、辺りが暗くなった時に、川の水面がほのかに明るく見えること」。作中で1ヶ所だけですが「川明かり」について触れています。

「お祖父ちゃんがよく言うのです。日が落ちてあたりが暗くなっても、川面だけが白く輝いているのを見ると、元気になれる。なんにもいいことがなくっても、ひとの心には光が残っていると思えるからって」

「大水のおかげで〈略〉村にはお祖父ちゃんのような年寄りや行き場のない女の人、子供たちが残っていたんですが、あのひとたちは、村のためにお金や食べ物を届けてくれたんだそうです」「〈略〉あの人たちは日暮れの後の川明かりみたいだってお祖父ちゃんは言ってます」

ここで語られている「大水」を起こさせた豪商やそれと繋がる藩の重役の悪行が物語の背景にあります。

少し堅苦しい武家ものが多い作者ですが、本作は堅苦しさがなく、ユーモアさえ感じさせる読みやすい時代小説でした。

素朴で正直すぎる18歳の伊東七十郎が主人公。藩内一の臆病者として有名で剣の腕前はからっきしだめ、実質30石の貧乏暮らしで小姓組に出仕する身。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
川止めで、木賃宿に逗留し、足止めを食っている若き侍、伊藤七十郎。藩で一番の臆病者と言われる男が、斬れと命じられた相手は、派閥争いの渦中にある家老。家老が江戸から国に入る前を討つ。すでに対岸まで来ているはずだ。川明けを待つ間、思いもかけぬ市井の人々との触れ合い、さらには降って湧いたような災難が続き、気弱な七十郎の心は千々に乱れるが―ひとびとのためにやると決意したのだ、と自分を叱咤した。たとえ、歯が立たない相手であっても、どんなにみっともない結果になろうとも、全力を尽くすのみだ。七十郎は叫びながら刀を抜いた。「それがしは刺客でござる」。

七十郎は藩内の派閥争いに巻き込まれ、家老の甘利典膳を刺殺する密命を帯びて藩堺にある巨勢川の宿場へ。

この川は雨が降ると渡れなくなり、江戸から戻ってくる典膳を天候が回復して川止めが終わるまでこの宿場で何日も待つことになります。

物語は刺客としての使命を果たそうとする七十郎を宿場で知り合った豪右衛門たち5名が助け、見事本懐を遂げるまでを描いています。

豪右衛門たちの正体は・・・ネタバレになりますが・・・「流れ星」と名乗る窃盗団。七十郎が彼らと信頼関係を築くまでを描いているところが、この物語の読みどころ。そして、藩内に渦巻く不穏な動きの背景を解き明かす過程も・・・。

「流れ星」となった彼らの過去には、七十郎の藩での派閥争いと根っこのところで絡んでおり、物語の構成は「さすが、葉室麟!」と唸らせるもの。

人物像が丁寧に描かれ、臆病者の七十郎と「流れ星」たちとの絆が深まる心理描写も巧み。オススメの一冊です。
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「小屋を燃す」

南木佳士の「小屋を燃す」(文藝春秋)を読みました。
小屋を燃す
自伝的な要素が強い「私小説」を書く作家なので、この連作短篇集には今までに読んだ作品に書かれていたこととダブる内容がときどき出てきます。

母が地元で小学校の教師をしていたことや作者がわずか3歳のときにこの世を去ったこと、そのため母方の祖母に育てられたこと、医学部を卒業後に信州にある総合病院に就職したこと、内科医として多くの死を看取ってきたこと、作家業との兼務によって疲弊しうつ病を発症したこと、登山など体を動かすことなどで病を克服してきたこと、若い頃に難民救援医療団に参加したこと、激務でうつ病を発症してから人間ドック科に移り生活と精神状態が変わったこと・・・等々。

本作は、作者が長年勤めた総合病院を退職する前後を描いたもので、現在と過去を行き来しながら、そして現実と幻想を交錯させながら「日常」を力まずに描いた作品です。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
思い起こされる幼年時代、患者の最期を看取る医療と作家業の両立の無理からの発病…その日その日を生きのびるために、畔を歩き、四股を踏む。たぶん、答えはあらかじめからだのなかに用意されていたのだろう。南木物語の終章。

信州の総合病院を定年退職した。同時代の男たちとイワナをつかみ獲り、小屋を造って集い、語り、そして燃す。生死のあわいをおだやかに見つめる連作短篇集―医師として生死を誠実に見守りつづけた著者にしか描きえぬ、幽明境を異にした者たちとの饗宴。充実の最新作品集。


「畔を歩く」「小屋を造る」「四股を踏む」「小屋を燃す」という4編が収められています。

このうち「小屋を造る」と「小屋を燃す」は、近所に住む同年配あるいは「語り手」よりも人生の先輩に当たる4人と畑の隅に小屋を作り、6年後に解体して燃やしてしまうという連作です。

仲間5人のうち、乙さんは川で足を滑らせて後頭部を強打して解体する前の年に死亡。甲さんは小屋を建てた半年後に心筋梗塞で逝ってしまっていました。

ラストで解体を終えてこの5人が小屋を燃やし、その炎を一緒に見守る・・・今まで読んだこの作者の作品にはなかった「描写」です。

人生の峠を越えたものたちがどう死と向き合うのか・・・大上段に構えることなく、淡々と描くことがこの作家のエートコなんでしょうネ。視点がコロコロ変わったり、過去と現在が突然入れ替わったり、少し読みにくい文章ですが・・・オススメに値する良作でした。
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「そうはいかない」

佐野洋子の「そうはいかない」(小学館)を読みました。
そうはいかない
佐野洋子と言えば・・・絵本の「100万回生きたねこ」の作者だということで有名ですね。それと、もう一つ・・・谷川俊太郎と再婚し、数年間で離婚してしまったということ。・・・予備知識としてはこれだけ・・・

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
この本は、見事な「変愛小説集」だ。といってもフィクションとエッセーの間を行ったり来たりする不思議な作品ぞろい。これを物語エッセーと名づけることにしよう。母と息子、母親と私、見栄っぱりの女友だち、離婚した美女、イタリアの女たらし、ニューヨークの日本人夫婦…自らの周りにいる愛すべき変人奇人たちを、独特の文体で活写した傑作33篇。イラストレーションも多数収録。

1989年から1992年にかけて雑誌に掲載された掌編が収録されており、亡くなった2010年に出版されたものです。

ツマラン!!!!としか言えない物語の連続にウンザリさせられました。フィクションなのかノンフィクションなのかは、さておき・・・。文は雑で、内容は愚痴っぽいものが多くて・・・33編も収められていますので、次はもしかすると=ペケ、次は少しまし?=ペケ、次こそまともな物語?=ペケ===この連続で最後まで読み終えてしまいました。

読み進めながら、なぜこの作者は歪んだ見方(誰でも多少はそんな考えに陥るのだと思いますが)で物事を見るのか、なぜそれを出版物として多くの人の目にあえてさらすのか・・・不思議でなりませんでした。

ユーモアとして書いているとは思えないし、作者の「経歴」を調べてみると実体験を(多少なりとも)反映しているとしか思えないし・・・こんな雑文をお金を払ってまで読んでいるファンの存在を考えると・・・ますます混乱するだけ。

もちろん、例外がありました。

「犬のゴロー」「母さんの脚」「船、堂々と」の3編だけは「あり得る」と共感できる物語でした。複雑な人間の心根をありのままに描いていて、なるほどと頷けた数少ない作品でアリマス。
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「満願」

米澤穂信の「満願」(新潮文庫)を読みました。
満願
久しぶりです、文庫版を読むのは。妻が購入していたものです。図書館に借りに行く時間がなくて、駅前に設置されている「返却ポスト」を使用。図書館で借りることができず・・・妻が勧めてくれた文庫本を読んだという次第。

今年の8月にNHK総合テレビでミステリースペシャルとして三夜連続でドラマ放映されたそうです。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」という6編からなる短編集です。

妻のオススメにはハズレがほとんどないのですが、本作は・・・めずらしく良くも悪くもない作品。

文庫本には「解説」が巻末に書かれているのが普通ですが、歯が浮くような過剰な褒め方に驚きます。手厳しい「解説」などそもそも採用されないとは思いますが・・・「松本清張(略)の作品集を手にしたときの気持ちが蘇る」とまでべた褒めするに至っては・・・呆れてしまいます。

第1話の「夜警」・・・新人警官の川藤が妻に暴力を振るう田原という男に5発も発砲するも刃物で刺されて殉職。この川藤巡査が死ぬ間際に「こんなはずじゃなかった」「上手くいったのに」と言ったことから先輩警官がこの事件の裏に潜む、表沙汰にはできない川藤の重大な秘密に気づくという物語。

この第1話を読んで、こんなつまらない話が第2話以降も続くのだったら読みたくないなあ、と思っていました。「保身」のために事件が起こるように仕向けた川藤。別の場所で拳銃を暴発させてしまったことを隠すため4発だけ撃ち・・・辞職に追い込まれるのを防ぐため「事件」を演出していたのです。

「解説」には、「人の心は孤絶しており〈略〉深奥で熟成されていったものが結晶した形を、米澤は各篇の最後に明かす。〈略〉そうするしかなかった、という呟きを聞きながら、ああ、なんと切実な、と読者は畏怖の念に打たれる。人間が孤独な存在であるということを思い知らされる短篇集だ。」とあるのですが・・・ああ、なんと大げさな、解説することに酔っている、としか言えないワタクシ。

第2話以降も同じように各編の最後に意外な事実が明かされます。といっても、これはミステリでよく使われる手法で珍しくもなんともありません。

断っておきますが、この短篇集の出来は悪くはありません。ただ、「史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔」という宣伝文句を鵜呑みにして読むと、ミステリをあまり読まない方に「ナーンジャ、短編ミステリってこんなもの?」と誤解を受けてしまうことを危惧しているのです。
テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

キク

Author:キク
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旧「アコーディオン好きの徒然日記」ともどもよろしくお願いします。

◆松原アコーディオンクラブ・奈良アコーディオン愛好会・ぱすとらあるアコ所属。
◆日本アコーディオン協会評議員

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