「壁の男」

貫井徳郎の「壁の男」(文藝春秋)を読みました。
壁の男
貫井徳郎の作品を読んだのは「後悔と真実の色」が初めてでした。この本はオススメとして紹介したのですが・・・その後読んだ短編2点と長編2点の出来が悪く(というよりも、私の好みに合わず)、図書館ではこの作家の本が並ぶ場所は意図的に素通りしてきました。

先日、図書館に行ったとき・・・真っ白な地に黒い文字で「壁の男 貫井徳郎」と書かれた背文字が目に飛びこみ、手に取って出版年を見ると昨秋発行されたばかりの本だと分かりました。新作という理由だけであまり期待せずに読んでみることにしました。

これが・・・大正解! 作者に対する評価が一変するほど読み応えがあり、温もりを感じさせてくれる感動的な小説でした。

文藝春秋のHPには、次のように紹介されています。
ある北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。その、決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男、伊苅(いかり)に、ノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが……。彼はなぜ、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか?

寂れかけた地方の集落を舞台に、孤独な男の半生と隠された真実が、抑制された硬質な語り口で、伏せたカードをめくるように明らかにされていく。ラストには、言いようのない衝撃と感動が待ち受ける傑作長篇。


物語は5つの章から成っています。「紹介」文を読むとノンフィクションライターの「私」が「男の半生」を明らかにしていく物語だと勘違いするような書き方になっていますが・・・取材で明らかになることはほとんどなく、主人公となる伊苅のことを三人称視点で描いていき、読者にだけ「真実」が明かされるという形式をとっています。

栃木県のある小さな町でのこと。SNS上で家々の壁に描かれている原色の稚拙な絵が話題となり、「観光」客として訪れる人がいるということを知ったノンフィクションライターが取材を始めるところから物語が始まります。

その絵を描いたのは、今は独り暮らしをして学習塾と便利屋をして生計を立てている伊苅。

第1章は家の壁が絵で埋められた町になるまでの経過が描かれています。ここまでは、またまたつまらなそうな話かも、と思いながら読んでいました。

第2章以降で、伊苅がなぜこの小さな町で家の壁に絵を描くようになったかが過去に遡って描かれています。

その過去とは・・・これを書いてしまうと読む楽しみを完璧に奪ってしまうことになりますので・・・詳しいことは省略します。

伊苅の「娘」のことや妻のこと、子ども時代をどう過ごしたのか、大学時代の友人について、勤めていたときのこと、父と母との家庭生活のこと・・・読み進めるにつれて読者は(少なくとも私は)、ノンフィクションライターが知りえなかった主人公の人格形成の過程の一端を知り、主人公に感情移入してしまうのです。

そして、最後に明かされる事実によって大きなショックを受け・・・同時に、伊苅が幼稚な絵を描き続ける本当の理由を知ることとなります。

憎らしいほどの「構成」です。読む価値がある「逸品」です。ご一読あれ・・・
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:3 

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# 2017.09.28 Thu19:33
このコメントは管理人のみ閲覧できます
くま女房 URL|
#- 2017.09.29 Fri18:04
図書ノートに控えておきます。ここのところ、大阪学系の本を大阪市の図書館でよく借ります。それと、近代社会と百貨店について。百貨店ではないですが、少し近い感じの業態の丸善、で、半年留年の後、司法書士の事務所の勤務が決まるまでアルバイトをさせていただきました。書籍売り場希望だったのですが、なぜか、ネクタイ売り場。でも、楽しく仕事をさせていただいた1年弱でした。
キク URL|くま女房さんへ
#- 2017.09.29 Fri18:39
あっという間に読める「読みやすい」小説です。
既読の本にペケ作品が多かったため、本作が世間の評価以上に高くなってしまいましたのかも・・・。
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