「冥途あり」

長野まゆみの「冥途あり」(講談社)を読みました。
冥途あり
この作家は「野川」で初めて出会い、卓越した表現力に脱帽。2冊目に読んだ「45°」は同性愛がごく普通に描かれ、「野川」を描いた作者が書いたとは思えないようなペケ作品にウンザリ。3冊目は「白いひつじ」という可もなく不可もなくといった作品。

図書館でときどきこの作家の本を手に取りパラパラ読みをするのですが、SFもどきやファンタジー小説、同性愛(特にBL)・・・好みの作品はなく、ずっと遠ざかってきました。

本作を図書館で少し読み、「父親」の葬儀を描きながら父や祖父を始めとする親族の来歴を描いた「まとも?」な小説だと分かり、久しぶりに借りてみることにしました。

「BOOK」データベースには、次のように紹介されています。
川辺の下町、東京・三河島。そこに生まれた父の生涯は、ゆるやかな川の流れのようにつつましくおだやかだった―。そう信じていたが、じつは思わぬ蛇行を繰り返していたのだった。亡くなってから意外な横顔に触れた娘は、あらためて父の生き方に思いを馳せるが…。遠ざかる昭和の原風景とともに描き出すある家族の物語。

「冥途あり」と「まるせい湯」という中編が2編収められています。真帆という名の「わたし」が一人称で語っていく物語です。

ある番組でのインタビュー記事をネット上で見つけたのですが、「わたし」は作者自身とイコールではないそうです。「記憶の中からエピソードを借りてきた部分はある」と作者が語っていますので、作者の実体験をベースにした小説であることは間違いないようです。

「冥途あり」では亡くなった父の葬儀をきっかけに思い出話が語られ、実直だった父だけでなく、話は破天荒だった祖父を始め一族の過去を父の親族が語り合うなかで「わたし」が知らなかった父や一族について思いをめぐらすという内容。

「父」は昭和5年に東京の三河島で生まれ、まもなく根岸に移って中学までを過ごします。疎開先だった広島に一家揃って移り住むこととなり、そこで「8月6日」を迎えます。

東京に戻ってから「父」は広島のことを語ろうとはせず、その記憶を封印することで穏やかに暮らし、以来50年あまりをこつこつと働いて・・・人生をまっとうしました。

葬儀に集まった親戚から「わたし」が知らなかった「父」の被曝や苦労話だけでなく、祖父や曾祖父のことにまで話が及び・・・初めて聞く話に驚きを隠せない「わたし」。

静かな戦争の物語でもあるのですが、彩りを添えているのが大酒飲みで怪しげな骨董屋を営む双子の従弟が語る話。この双子のウソかホントか判断できない話がこの小説を面白くしている最大?の緩衝材。

「父」の死をきっかけに一族の過去を知り、それが未来へと受け継がれるという味わい深い小説に、この双子のハチャメチャとも思える思い出話が良い味つけとなって、読後感をよいものにしてくれています。

「まるせい湯」については省略します。

「野川」のよさには負けてしまいますが・・・オススメの一冊です。
スポンサーサイト
テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

Comment

comment form
(編集・削除用):
管理者にだけ表示を許可
プロフィール

キク

Author:キク
FC2ブログへようこそ!
旧「アコーディオン好きの徒然日記」ともどもよろしくお願いします。

◆松原アコーディオンクラブ・奈良アコーディオン愛好会・ぱすとらあるアコ所属。
◆日本アコーディオン協会評議員

カレンダー
04 | 2018/05 | 06
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
検索フォーム
QRコード
QR